榛蕪庵
読書・登山・日常など佐姫子のよしなしごと
僕の美しい人だから
「ぼくの美しい人だから」
クリスマスに飛び切り切ない恋愛小説を。


スーザン・サランドン、ジェームス・スペイダー主演で映画化されたので題名はご存知の方も多いかと。
小説はグレン・サヴァン原作。原題「White Palace」。
ホワイトパレスとは、アメリカのハンバーガーチェーン店で、ヒロインの職場でもありますが、日本でこの題名で売り出してもに「なんのこっちゃ」となるのは目に見えている。その意味で「僕の美しい人だから」という邦題はなかなか優れていますね。
10年前に出会ってから、何度も何度も読み返している大好きな恋愛小説です。


ストーリー
27歳のマックスは将来を嘱望されるエリート広告マン。妻に事故で先立たれてからは女性と触れ合うことを恐れている。
ノーラは41歳のハンバーガー店売り子。両極端な境遇の二人がある日出会ってしまった・・・。その時から二人は愛し合い、求め合う。
容姿・年齢・学歴・地位、すべて不釣合な2人が恋に落ちてしまったら…。男は2人の仲を公けにできない自分に嫌悪し、女は将来を絶望する。男はこれまでの建前生活に嫌気がさし、本音で生きる女にますます魅かれる。人が人を愛した時、どこまで相手に正直に誠実になれるか―永遠の主題を新しい感覚で捉えた話題作。


サヴァン自身も作品の中で幾度か引用しているけれど、このお話のベースには、シェイクスピアの古典「ロミオとジュリエット」があります。
触れ合ってはいけない二人が出会い、どうしようもなく恋におちる。
二人とも、行き着く先は破局だと理解している。
想いを遂げるためには他のすべてを捨てなければならない。
それでも愛しいと思う心がとどまらない。

人を愛するのに理由なんかなく、どこまでものめりこんでいく主人公のマックスに共感します。
愛そうと思って愛することなんかない。たいていの場合、気づいたら愛してしまっている。
マックスは初めて抑制の効かない愛という感情を経験するのです。
それでも彼女を選択するために、自分の仕事、友人、家族を捨てる勇気がもてない。こそにも共感します。
(解りにくかったら不倫を考えるといいかも。相手を家族に紹介できますか?職場のパーティーに連れて行けますか?)

そしてヒロイン、ノーラ。
白人の底辺をなす生活をしながらも、女性ならではの生命力、厚顔無恥、したたかさ、賢さを持っています。
そもそも二人の始まりはノーラが彼を策略で酔いつぶし、自宅に引っ張り込んで無理やりセックスしたことから始まるのです。
一夜の遊びのつもりだったけど、彼女も恋に落ちる。
それでも、彼女は気づくのです。
彼の生活に彼女の入る隙など無い事を。彼が彼女を愛していることを密かに恥じている事を。
真実、その事を悟ったときの彼女の行動が、素晴らしいのね。
痕跡さえも残さず彼の前から消えるのです。



「ジェットコースターで急斜面をまっさかさまに落とされたみたい。もう来る、もう来ると思って体を抱きしめているのに、いざ始まると結局頭をそらして絶叫している」

マックスがノーラを失って想うこと。
失意と後悔にまみれて彼は、決意する。
ノーラを失うことなど、出来ない。
今までの生活のすべてを捨てても。
僕は絶望的にノーラを愛しているのだから。


さあ、その後マックスの取った行動とは・・・・。
それは世のすべての女性の胸をきゅんっと締め付けるでしょう。
最後の20ページのために、この分厚い一冊を読んできたようなもの。
これぞ恋愛小説の醍醐味というものですわ。



現実にはなかなかありえないお話でしょうが、二人が恋に落ち、すれ違い、喧嘩し、渇望し、妄執する。すべてが実に説得力を持って描かれている点、作者の力量を感じます。

作者グレン・サヴァンで日本で紹介されているのは本書と「あるがままに愛したい」の2冊のみ。
2004年に49歳の若さで、亡くなっている。
この人の切ない恋愛小説をもっと読みたかったのに、残念でなりません。

僕の美しい人だから

「僕の美しい人だから」
雨沢 泰 (翻訳)、グレン・サヴァン著
新潮文庫
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